日本福音ルーテル市川教会会堂は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計により昭和30年(1955)に竣工した。平成20年(2008)には文化財としての価値が認められ、国の登録有形文化財に登録されている。
築後50年を経て修理が必要な時期を迎えていたところに、平成23年(2011)の東日本大震災による被害が加わった。真間川沿いの軟弱な地盤という立地条件もあり、同年11月から杭工事、基礎工事および壁の構造補強工事を実施した。工事の途中で蟻害が判明し、塔屋部分の全解体が必要となったが、教会の信徒の方々や施工を担当した岩瀬建築の職人の方々と話し合いを重ね、平成24年(2012)10月末に完成した。
【修理設計の考え方】
不同沈下:建物は地盤に力を伝えて自立している。市川教会が建つ地盤は軟弱で、真間川に接する立地から今後の地盤沈下の可能性も大きく、これまでにも護岸の陥没事故が起きている。建物周囲の地盤はすでに沈下しており、建物全体に不同沈下が見られ、内外装にも亀裂が確認された。長期にわたって保存活用するためには、表土の下の固い地盤まで力を伝え、建物を構造補強する必要があった。
杭工事:鉄管杭を中間支持層まで圧入するアンダーピニング工法を採用した。支持力のある層(ここでは6〜9m)まで、直径12〜15cm程度の鉄管杭を、建物を曳いたり揚げたりすることなく、地盤に圧入し、L75cm程の鉄管杭を溶接しながら継ぎ足し、沈下を修正する工法である。
基礎工事:木軸の荷重は基礎から杭を経て地盤に伝わる。既存の基礎には構造クラックがあったため、配筋を行い、既存基礎に沿わせて新たな基礎を打設して補強した。
柱・外壁の構造補強:地震に耐えうる剛性を確保するため、構造用合板で外壁を補強した。会堂部分の柱には杉の4寸角が二重に入れられているが、さらに剛性を高めるため鉄骨柱を追加した。とくに地震力に弱い塔屋部分には鉄骨を入れて補強した。
仕上の変更:杭工事および基礎工事に伴い、室内の床と壁の仕上げを変更した。外壁は構造補強にあわせて仕上げを施し直し、当初の外壁の色が残っていたことから、その色彩を復原した。会堂の床板は張り直した。
窓廻りの損傷修理:軒の出が少ないというヴォーリズ設計の建物の特徴から窓廻りに傷みが生じ、壁内に水が浸入している箇所もあった。三方枠や水切りなど損傷の激しい木部を修理し、腐朽の進んだ鉄製窓は取り替えた。すべての窓を調整し、開閉に支障がないようにした。